2018 PEPPERLAND TOPICS

主にペパーランドの年末ライブパンフレットに掲載した記事を転載しております。

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BLUEMONDAY 特別企画
伝説のライブ「鋼鉄のオペラ」LIVE &上映+TALK

2018.8.27 at 岡山PEPPERLAND

1986年に藝術結社モーツアルテ△ユーゲントが行った伝説のライブ「鋼鉄のオペラ」。1987年の活動休止後、男性メンバーだけで結成されたPBC(パーフェクト・ボディ・コントロール)。その貴重な映像記録を上映し、メンバーである谷崎テトラ氏と能勢がその当時の状況やコンセプトなど解説を交えながらトークを行った。上映後には谷崎テトラ氏とソプラノ歌手の岩崎園子氏による「鋼鉄のオペラ」の挿入歌を中心にしたライブパフォーマンスが行われた。ライブ終演後も音階の話からシュタイナーまでトークが縦横無尽に繰り広げられた。
 
①モーツアルテ△ユーゲント「鋼鉄のオペラ」(1987/2017)のハイライト  
②PBC 鉄鋼島 LIVE(2017)*抜粋 
③PBC LIVE(1987-1994)*抜粋    
④「GOD+ANALOGIA」(1991)J. P.Tenshin+能勢伊勢雄*抜粋
 
 
 
 
 

PBC「鋼鉄のオペラ」と、表現が内包する文化の繋がりについて考えたこと  重政淳志(マッシュ星川 MC)

今年もPEPPERLANDではたくさんのライブや催しが行われました。その中でも8月27日に谷崎テトラさんをPEPPERLANDに迎えて行われた、「【BLUEMONDAY 特別企画】モーツアルテ△ユーゲント/PBC Presents「伝説のライブ「鋼鉄のオペラ」LIVE&上映+TALK」は、最も刺激的な夜の1つであったと思います。谷崎テトラさんは、作家であり、音楽プロデューサーであり、大学教授でもあります。世界各地の秘境に出かけて、フィールドレコーディングで採集した音を編集してアルバムを出されたり、脳内覚醒モンドクラブやウゴウゴルーガなど、大変ディープかつキャッチーな内容のテレビ番組を作成されたりと、様々な活動をされています。この日はまず、テトラさんと伊勢雄さんとの対談がありました。大脳生理学のジョン・C・リリーや、シュタイナーの人智学、天体と音階の関係性など、興味をそそられるテーマが次々と飛び出していました。その中でも、自分はモーツァルトの音楽の話が特に印象に残っています。モーツァルトの楽譜は逆さにして演奏しても成立するように作曲されているものがあるという話です。何故そんな事をモーツァルトはやったのか、おそらく当時の芸術の世界における音楽以外の表現からも影響を受け、それを自分の作品の中に取り込もうとしたのかなと思います。モーツァルトの音楽の中にはマニエリスムの思想が入ってたり、フリーメーソンの儀式を表現したものがあったりするということを知りました。クラッシック音楽にも、アンダーグラウンドなカルチャーとの繋がりがある事が衝撃でした。次から次へと話が尽きないトークでしたが、展開していく話題には何らかの関連性があり、伊勢雄さんの作られる『遊図』が出来る過程をライブで観させてもらっているように思いました。続いてこの日のメインイベント、谷崎テトラさんもメンバーであるインダストリアル・バンド「PBC」の貴重な映像(鋼鉄のオペラ)をご本人の説明付きで鑑賞させてもらいました。80年代に行った「鋼鉄のオペラ」のライブ映像と、それから30年を経て近年再演された「鋼鉄のオペラ」。インダストリアルな音塊と、それを視覚的に具現化するような舞台の様子が映像から激しく伝わって来ます。危なげな雰囲気が漂う会場で、多くの人がPBCの表現に観入っている様子も映っており、自分も映像を通してその世界に引き込まれました。インダストリアルミュージックの始祖とも言われる、スロッピング・グリッスルというバンドがいます。80年代初頭の彼らのライブ会場には、ものすごい数の人が詰めかけていたそうなのです。インダストリアル・ミュージックが、多くの人にリアリティを伴って受け入れられたのだと思います。日本にも、インダストリアル・ミュージックの要素を取り入れた音楽をされる方はたくさん出ました。しかし、スロッピング・グリッスルのような、インダストリアル・ミュージックそのものの表現を日本で成し得たのが、谷崎テトラさんのPBCのように思います。鉄板をバッコンバッコン叩き倒すのは、おそらく自分でもできます。しかしそれを力のある表現として提示するには、稀有なセンスと相当の知性に裏打ちされていなければならないのです。テトラさんやPBCの方達からそれを感じます。今回PEPPERLANDで実際にお話を聞いたり、映像やライブを観させてもらってそう思いました。また、テトラさんの多岐に渡る活動も、テトラさんの中で互いに関係し合っているのだと思います。この夜は、PBC「鋼鉄のオペラ」を中心に、様々なテーマや表現についての話も飛び交いました。まさに、PARA MARKET SPECTACLEという概念を体現し切った、貴重な一夜でありました。またやってください!!
 

「何故か銅ではなく、鉄なのです」  犬養佳子(Rrose Selavy/Celine)

ペパーランドPA綾佳ちゃんの特別企画で、PBCの谷崎テトラさんが来られるという。¶¶以前、能勢伊勢雄大全(講座)で1991年の備前アートイベントでのPBCの野外パフォーマンス「神とアナロギア」が紹介され、映像だけどその圧倒的なパフォーマンスの残像が強く心に残っていたので是非とも参加したかった。¶モーツァルテ△ユーゲントの「鋼鉄のオペラ」やPBCの鉄工島LIVE,そして「神とアナロギア」などハイライトや抜粋の映像ながら、視覚的にも聴覚的にも硬質な金属的な響きの余韻が身体に、脳に残る感じである。¶休憩後は声楽家・岩崎園子さんの少しだけマイクを通した歌と谷崎テトラさんの音。¶レナードコーエンの"ハレルヤ"やワーリーの"さらばわが故郷"、フォーレの"レクイエム"、"PBCのテーマ"などいつものペパーランドの空間でクラッシックの歌唱を聴く不思議さ。¶いよいよ楽しみにしていた能勢伊勢雄さんと谷崎テトラさんの対談、予定があり23時過ぎには帰らなければならないのが本当に残念な程、緊張感のある言葉と話題が次から次へと交わされた。¶シークレットコード、天体の重量の比率から自然界の中の見えない音階の話、アトランティスは視覚が効かない世界、聴覚しかない世界で音といえば自然倍音しかないというシュタイナー的な考え方の話から、シュタイナーでいえば5度の音が重要であるとか。¶ハンスホルベインの二つのイエスから切り取った絵画論で描かれたキリスト像の話、ここでも二つのイエス、二人のイエスという表現の仕方でお二人の間に熱のこもったやりとりが交わされたり。¶谷崎テトラさんの30年後も鉄を叩いているか。はるか彼方の未来の世界で埃や塵にかこまれたイメージの中、そこでは耳には音の記憶だけがあり、音はいらない…という言葉から荒涼としたSFのような地球の姿に想いを馳せてみた。¶中座して帰る頃には話題はオウム真理教とかサリンの話に移っていて興味深かったけれど後髪をひかれるようにして帰った。¶またお二人の対談機会があれば是非とも聴きたいです!
 

鉄の響き 岡茂毅(Phenomena)

今回のイベントは、芸術結社モーツァルテ△ユーゲント、PBCのメンバーであった谷崎テトラ氏と伊勢雄さんの解説付きで伝説となった「鋼鉄のオペラ」をはじめPBCの貴重なライブ映像を観ていき、さらにソプラノ歌手の岩崎園子氏と谷崎氏による「鋼鉄のオペラ」の挿入歌を中心としたライブもあるという非常に濃密な内容であった。¶「鋼鉄のオペラ」は、集合場所と時間が告知され、集まった観客を拉致し倉庫の中で始められる。白い布が燃え、鉄をたたく重いノイズの響きにドイツ語の歌唱、ヒトラーの演説。秘密の儀式のようなこのライブは見た人にとって強烈な体験だったに違いない。¶「鋼鉄のオペラ」のすぐ後にモーツァルテ△ユーゲントは活動を休止し、男性メンバー4人はPBCの活動を始める。2016年に工業化社会の成れの果てに核で滅んだ世界から1986年にやってきたレプリカントが崩壊した都市に残された鉄を暴力的に叩きまくるというコンセプトであったという。当時リリースされた鉄を叩いたサウンドとHIP-HOPを組み合わせた音源を聞いた後、伊勢雄さんが撮影した備前アートイベントでのパフォーマンスの映像作品『神とアナロギア』が上映された。PBCを初めて知ったのは2004年の「スペクタル能勢伊勢雄1968-2004」展で観た『神とアナロギア』の映像を通してだった。闇の中、炎に照らし出される裸の男達、血を模した赤い液体、十字架と物々しく行われる儀式、鳴り響く重々しい金属音。当時はよく分かってなかったがずっと印象に残っていた。久しぶりにPEPPERLANDの音響で観たのだが、そのサウンドの強烈さに驚かされた。強烈な打撃音のノイズが霊的なものを呼び起こしていく、おどろおどろしさや肉体的で混沌とした映像があるにも関わらず一つの神事のような清清しさがあった。天岩戸の前で天宇受賣命が桶を踏み鳴らし、神懸り胸もあらわに踊ったというのが思い起こされた。未来の天宇受賣命はきっと廃墟の中で鉄を打ち鳴らすに違いない、そんな気がした。¶この強烈なパフォーマンスの後90年代に入ってからのPBCは、脳科学者ジョン・C・リリーとのイルカと人間のコミュニケーションをテーマにした『ECCO』やティモシー・リアリーとの死者の書をテーマにした『バルド・ソドル』などコラボレーション作品を作り、パーフェクト・ボディー・コントロールからパーフェクト・ブレイン・コントロールへと活動をシフトしていく。この時に伊勢雄さんが死者の書の最後の問いかけである「明るい光の中に飛び込め!」の話をし飛び込めなければ輪廻が止まるということを話されたが、2017年版『鋼鉄のオペラ』の最後に壁を破りその先にある光の中にメンバーが消えていくというまさにそのもののシーンがあり印象的だった。モーツァルトとフリーメイソンとの関係、マニエリスムのアナグラムなど興味深い話が次々に飛び出した。2016年になり核で崩壊しなかった未来がやってきた時にPBCは真結成したが、パーフェクト・ボディー・コントロールでもパーフェクト・ブレイン・コントロールでもないという。最後に2017年に鉄工島フェスでのPBCの映像が流された。北朝鮮のミサイルで緊迫した雰囲気の中、恐怖と熱狂で安部首相の演説で歓声が上がるという恐ろしさを感じたという。¶映像の上映が終わり、谷崎氏と岩崎氏によるライブパフォーマンスが行われた。レナード・コーエンの「ハレルヤ」と本来15人のメタル・パーカッションと10人のコーラスで演奏されるという「レクイエム」という曲が印象的だった。騒々しい中に清らかな歌声が響き、不思議な心地よさがあった。¶ライブ後も谷崎氏と伊勢雄さんの話しは尽きることなく失われた惑星の音が12音階の問題であるというシークレットコードの話から、シュタイナーや神秘学の話、オウム真理教の話などへと続いていった。話しは盛りだくさん過ぎるので割愛するが、金属を叩くことでその本質が音に出るということ、リズムよりも音の響きを重視したということが興味深かった。現代的なドローン・ミュージックの登場以降音の響きというものがジャンルに関係なく重要視されてきてるのを実感しているので、PBCの先見性を強く感じた。今後のPBCの方向性で鉄が土に還るという話が出たときに伊勢雄さんが土に還る前に酸化鉄があると提案した。酸化鉄は優れた振動体であるそうだ。強烈な振動体である酸化鉄によるメタルパーカッション、これはぜひ聴いてみたい!!
 

鋼鉄のオペラ@ペパーランドを見て。  加治昇一郎(ミュージシャン・向こう岸)

鋼鉄のオペラの谷崎テトラさんが来る、この日は面白いから!とペパースタッフが言うので何の予備知識もなく行ってみました。僕が入った時にはもう始まっていて、スクリーンに過去のオペラの映像が流れていました。暗めの空間に兵隊のような衣装を着た人たちが20人くらいずらっと、1メートルほどの鉄のドラム缶を立てて叩きまくってて。1段上がったところでドラムやシンセが爆音で鳴ってて。中央で女性の方がオペラを歌っていました。とにかくドラム缶の音がでかい!単純なリズムを一斉に叩いてるんだけど、もはや地響きになってました。映像越しだけど、その場にいたらどんな感じだったんだろうか。その上を女声のオペラが響いていて、だんだん展開していって。最後は後ろの壁をぶち壊していて、その向こうは光しか見えない空間になっていて、一人ずつ退場していきました。何だか分からんけどすごくカッコ良かったです。
 

鉄と血   森美樹(ガラス作家・Phenomena)

鉄を舐めた時に血の味がする。動物たちが鉄分を必要として、山で猿が赤土を食べるように、鹿が岩や鉄道の線路を舐めるように、人間も鉄を身体に必要とする。終始、口の中で鉄と血の味を感じ、身体の中に入っていく。そんな体験だった。モーツアルテ△ユーゲント・PBCは、鉄を叩く。振動は聴覚を突き抜け、直に骨や脳へ響き、身体の内側の何よりも近く、心拍・脈と重なる。まだ言葉をしゃべれないこどもが机などをばんばん叩く。それは、周りの人に気づいてもらうという自分の存在を肯定的に感じる行為であり、また、周りに影響を及ぼす力があるという行為だ。鉄を叩き、炎を使う。炎は人を惹きつけ、血をたぎらせる。振動と炎の光、聴覚と視覚、熱の中に観客は身を置くのだから、とりつくろった状態ではいられない。何か内側から湧き上がるような、身体が拓いていくのを感じる。記録映像のハイライトを見ただけでも、その空気の片鱗を感じた。¶谷崎テトラとオペラ歌手の岩崎園子のライブは、音と人声とが重なり、声が神聖なもの、生命を感じる一方で、岩崎園子の身体がこの地上から離れ、血気が引き、どこかレプリカントのような、形態だけを残して、はるか遠くへいってしまうのではないか、というそんな瞬間もあった。感情や記憶、過去から解き放たれたところからは、未来の方向が分からなくなり宙に浮く。幸いに音(声)のおかげで、足元に微小の生命のエッセンスを僅かに繋ぎ留める。「鋼鉄のオペラ」の最後は舞台背後の壁を突き破り光(生命)の中へ飛び込む。この世界から別次元へ飛び込む。一瞬も怯むことはできない。「世界を変えるためではなく、世界によって変えられないために、沈黙の中で共謀を芸術せよ」それは、私達の血の中に宿る。
 

鋼鉄からオペラまで 木村匡孝(Phenomena)

当日、ペパーランドに着き中に入ると谷崎テトラさんがBGMでthe caretakerの現在も進行中のシリーズ「Everywhere At The End of time」をかけていました。この6部作になるシリーズですが、古き良き時代のムーディーな音楽の世界から崩れていき、ノイズドローンのような世界に向かっていく。そんな流れの中で始まったlive&上映+talkは現代を生きている自分にはとても興味深く、感動しました。¶鋼鉄のオペラがポストインダスストリアル、メタルパーカッションで目覚めるような感覚から、PREMのドローンにより内なる世界に導かれていき、岩崎園子さんの歌、声により新たに生まれ、救われる。という時系列はバラバラでしたが、このイベントは自分の中で繋がっていく感覚がありました。人間の救いとは?何故か岩崎さんの歌で涙がでてきた事は今でもよく分かりませんが、映画『ゼロ・グラビティ』で宇宙に宇宙飛行士が飛んでいきながら歌を聞いてるシーン、ペパーランドに掛けてあった田中浩一さんの絵。ペパーランドでさせてもらっている様々な体験が走馬灯のように目の前に広がり、歌は今でも響いているように思います。モーツアルテ△ユーゲントの映像でライブの最後に光の中入っていくシーンはとても印象的でした。
 

エネルギーの塊 沖島聖子(Phenomena)

モーツアルテ△ユーゲントのパフォーマンス映像やトークなど貴重なものを見ることができた。「鋼鉄のオペラ」1987年当時観客は集合場所から拉致のような形で目隠ししたまま上演場所に連れていかれたということだったし、着いたら重々しいムードと金属的な騒音も儀式的で何かの呪術の追体験と感じられただろうと思った。対談で言われていたように、思考、感覚、行動の初期衝動的なエネルギーがそのまま結晶しているようだった。¶谷崎テトラ氏はこれだけ情報の洪水のように要素をちりばめたパフォーマンスを成立させたり、ジョン・C・リリー、ティモシー・リアリーとの作品作り、アマゾン部族との生活、サリン事件に関わるなど徹底して濃い経験を語られる中で、切り口は混乱のない明晰さが印象的だった。Dommuneでお会いした宇川直広さんにも感じたのと似ていて、発想もお話も尽きることがないエネルギーの塊のようだった。最後の谷崎テトラ氏と岩崎園子氏の演奏では、ハレルヤやアリアの曲の中でやわらかさや繊細な調和もまた感じられて不思議な余韻となった。
 

終演後の記念撮影、左から能勢、谷崎テトラ氏、岩崎園子氏